――――異伝一
第九話 怒れる眸
眼下に広がる白い地面。その中で染みのように広がる青い血溜り。
幾つかの横たわった骸が尋常ならざる速度で腐敗し、風化しては無に帰する。
殺戮の狂宴の中、生き残った魔物も負った手傷が原因で力尽き、敗者と同じ末路を辿る。
日常からかけ離れた現象を前に、観客席を所狭しと埋めている人々は固唾を呑んで陶酔し、そして愉悦と歓喜の喚声をあげていた。
催しの一つである戦闘の終了を見極め、場を取り仕切る進行役の男の声が高らかに響いた。それは歓声が擾乱する渦中にあって、不思議と客席の隅々まで行き渡る。届いた言葉に観客達は一斉に、水を打ったように静まり、次への期待に胸を高鳴らせていた。
白円の戦場の両極にある鉄格子が、砂の擦れる錆びついた破裂音を周囲に厳かに撒き散らしながらゆっくりと押し開けられる。そしてそこから、次の戦いを始める闘士達…この場合は魔物である、が勢い良く飛び出してくる……筈であった。
『なっ!?』
観客の誰かが叫んだ。それは湖水に投じられた小石のように、静かに確実に周囲に浸透し漣を生み出す。瞬く間に動揺が広がった観客達は戦慄に硬直した。だがそれは当然の反応だったのかも知れない。眼下を見下ろしていた誰もが、予想だにしなかった事が起こったのだから。
低く地鳴りのような轟音を響かせて完全に開いた鉄格子の扉。その闇が支配する内側から勢い良く飛び出してきたのは、十数名にも及ぶ男達だった。彼らはこの闘技場で、外から
鹵獲してきた魔物を飼育、管理している係員達で、魔物と対峙する事にかけてはこの国で最も馴染みのある種類の人間だと言えよう。
その彼らを追うように闇から飛び出してきたのは、狂ったように暴れ回る魔物の群れ。暗い闇の底から這い上がり、明るい太陽の下に出だした事に狂喜の咆哮を上げて、闘技場にいる人間全てを威嚇する。その嘶きに続いて次から次へと沸いて出てくる魔物達。地を走り空を飛び、それらはその円形の檻の中にあって異形である人間…先程逃げ出してきた男達に向かって牙を剥け、殺到した。
逃げ出してきた男達は、恐怖と絶望を顔に貼り付けて白砂の地を逃げ回っている。だがこの広い闘場において唯一外側から入る事ができる入り口は鋼鉄の門扉で固く閉ざされており、構造上内側から開ける事はできない代物だった。男達はそれぞれに武器を携えていたが、圧倒的な物量の差で迫る魔物の大群に成す術も退路を無く。絶望の壁を背に、大津波のように迫り来る異形が包囲していき、地を躍っていた男達の影も、より昏い影に呑み込まれ闇に染まる。そして……。
何時までも耳に残る幾多の断末魔と、白砂に異様なまでに鮮明に映える紅い血潮を無残に撒き散らした。
『うわぁぁぁぁああ!!』
『キャアァァァァァ!!』
今の今まで異形の魔物同士の殺戮に歓声を上げていた観客、同じ人間が魔物の群れに虐殺される凄惨な場を目の当りにした観客の誰かが悲叫する。それを皮切りに次々と捲き上がる悲鳴と慟哭に、闘技場全体が恐慌状態に陥る。混乱した思考で逃げ惑う人々は出入口にまるで餌に群がる蟻のように集中し、観客席は混迷を極めた。本来ならば誘導するべき闘技場で働く者達が、建物の構造を知るが故に真っ先に逃げてしまった事が、事態の混乱に拍車をかけてしまった。
獲物を失い、当ても無く徘徊していた魔物達は高く響き渡る悲鳴を聞きつけ、次にその内外を隔てている高く囲む周壁の上に狙いを定めた。何かしらの意志が働いているのか、魔物の群れは瞬く間に壁際に群がり、遥か高き先を目指して攀じ登り始めた。強靭な爪や角や顎を持った魔物達は石壁にそれらを突き立て、少しずつであったが徐々に確実に詰め寄ってきていた。
空を飛ぶ翼ある魔物達は、次々と闘技場の開かれた天井を越えて場外へ、街へと飛び出していく。その空に昇る禍々しさはまるで絶望の狼煙が世界に立ち上ったかのようだった。
「ま、まままま魔物が!?」
場内の異変に気がついて、王は怯懦に塗れ引き攣った顔で後ずさってくる。護衛に来た兵士達も、突然の事に対応できずにただ
狼狽えるばかり。その動揺の顕れか、震える手で引き抜こうとした剣は鞘の途中で止まり固定され、その反動で足が
縺れ、床に尻餅を着いてしまう始末だ。
そんな滑稽な兵士達に囲まれて焦燥に青ざめていた王は、何かの打開策を思いついたのか、顔に満面の笑みを浮かべて主賓室の奥を振り返った。その視線の先の薄暗い影の中に居たのは、つい先程この国でも『勇者』と認めた少年…ユリウス=ブラムバルド。恐ろしく機敏な動きで王はユリウスの下に駆け寄り、今も魔物の群れが這い上がらんとしている場内の中心を指差して高らかと叫んだ。
「ゆ、ユリウスよ! そ、そなたに命ずる!!『勇者』として、あれを…あれらを何とかせいっ!!」
怯えているのを隠し切れていないのにも関わらず、尊大に言い放つ王。
その鬱陶しいまでに必死に懇願する視線を受けて、ユリウスは誰に
覚られる事の無い程小さく嘆息した。
「……わかりました。では、陛下はどうか安全な処へお下がりください」
「う、うむっ!」
至極淡々と、これ程までに動揺し怯えている自分が滑稽に思える程に、眼前に立つの少年は平然としていた。『勇者』として自信から魔物など恐るるにたらないと感じているのか。或いはそれさえも感じる精神が既に焼き切れてしまっているのか。混乱する場を前に少しも乱れる様子のない、人形のように変わらない表情を見て、王はこの少年が歳相応の、所詮は辺境の島国が虚栄で言い放った偶像、とは異なるという事を今更ながらに思い知った。
『勇者』という存在がこの緊張の中の弛緩剤となったか、幾分か平静を取り戻した兵達は王の下に迅速に集う。
その時、ユリウスではない酷く落ち着いた声が、その場に響き渡った。
「畏れながら、既に魔物群の一部がこの闘技場より外へ出だしております。故に至急、宮中に駐在している騎士団に市中の警護を命ずる事を具申いたします」
場違いなまでに落ち着いたレイヴィスは、恭しく王に膝を折って進言する。
「む、それもそうじゃな。おい、城にそのように伝えろ!!」
「は!」
護衛の兵士の一人は、慌てて駆け出した。
安全な場所を目指し、王は兵士達に囲まれながらこの場を退散する。後に残されたのは、周囲の騒乱に少しの動揺も見せないユリウスとレイヴィスの二人だけ。周りの悲鳴や混乱など歯牙にもかけていないこの二人は、遠く離れていった王達の後姿を尻目に、同時に大きく溜息を吐いた。
「さて、お荷物は退散した事だし……ユリウス」
「?」
言いながらレイヴィスは腰に下げてあった二振りのうち、一本を場内の状況を眺めていたユリウスに放る。
「お前は槍も使えるが念の為だ。予備としてこいつを持っておけ。あ、別に使い捨てても構わないぞ。それは騎士団の備品を余分に拝借した物だからな」
「…………ああ」
今現在、ユリウスは腰に王都で新調したばかりの鋼鉄の剣を下げ、背にはカザーブ村にてノアニール村の一件に対しての報酬として貰った鋼鉄の槍を背負っていた。この槍は、彼の地で嘗て特産であった
秘錬鉱製で、その鉱物で鍛造された刃の強度は非常に高く、また鋭く軽いという剣や槍の材質として非常に適した物であった。
充分な武装をしているのにも関わらず、レイヴィスは更に剣を譲ってくる。それは偏にこちらの考えを見通している事に他ならなかった。確かに、
これからの事を考えれば武器は多いに越した事は無いからだ。
先手を打たれたユリウスは暢達とした口調のレイヴィスを半眼で一瞥した後、小さく嘆息する。レイヴィスはレイヴィスで、そのユリウスの反応に気が付いてか、薄く口元を歪ませて肩を竦めていた。
その時、部屋に飛び込んできた二匹の翼を持った飛翔する猫の魔物…キャットフライを、ユリウスとレイヴィスはそれぞれ抜剣しつつ、振り向きざまに切り伏せる。それぞれ袈裟に逆袈裟に断たれた魔物は、床の上に青い血潮を撒き散らしてピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。
それを冷めた目で一瞥してから、レイヴィスは闘技場内をぐるりと見回した。
白砂の上を所狭しと徘徊しているのはキャタピラーやポイズントード、さまよう鎧やアルミラージといった王都周辺で比較的良く見られる魔物の群れだった。その中で稀にアニマルゾンビやバリイドドッグ、デスフラッターなど王都より離れた地方に出現する魔物が混じっている。逆に観客席の方には、野生が『魔』に反応して凶暴強大化した猿…暴れ猿が驚異的な跳躍力で壁を越えて立ち入り、翼有るキャットフライや人喰い蛾などが無差別に逃げ遅れた観客や周囲の備品を破壊して回っている。
「……見る限り、
王都周辺に徘徊している雑魚だな。まぁ、それ以上の奴を捕らえる事が出来きるんなら、これほど慌てる事も無いんだろうが」
呑気に頭を掻きながら嘆息し、レイヴィスは剣を肩に担ぐ。そしてユリウスに目配せした。
「どうだ、いけるか?」
「問題無い」
淡々と即答するユリウスに、レイヴィスはそうか、と満足げに笑った。
「観客席の掃除は俺がしておこう。お前は
いつも通りに、な」
「…………」
ポンッと、軽く激励するようにレイヴィスはユリウスの肩を叩き、部屋の扉を堂々と開け放つ。
その音に、既に観客席で暴れ回っていた魔物が一斉にこちらに気付き、牙を向け殺到してくるが、レイヴィスは抜き放たれたままの剣を五月雨のように閃かせ、瞬時に飛び掛ってきた数匹の魔物を切り刻んだ。
「さぁてと、ボチボチ行かれますか」
緊迫感がまるで無い様相でユリウスに声をかけ、レイヴィスは背後から豪腕を振り上げていた暴れ猿の懐に瞬く間に潜り込んでは、その四肢をバラバラに断った。
すぐ横で聞こえてくる剣が肉や骨を断つ音や仰々しい断末魔を耳に、双眸を伏せたままユリウスは部屋の先に向かってゆっくりと歩き出す。そして先程まで王が立っていた最端の手すりに辿り着き、眼下に白砂を侵蝕するように広がっていく魔物の異形の影を見下ろした。ジワジワと蝕むように広がっていくその様は、まるで真白の布地に染み込む血液のようでもあるし、浜辺に単調にうちつける無限の波のようだとも何となしに思った。
小さく頭を振って下らない思考を排し、ユリウスは魔物の群れに向けて手を翳す。そして双眸を伏せ、
魔力の収束を始めた。虚空に突き出された掌の周囲に小さな光の粒子が幾つも顕れ、それは徐々に一点に収束して肥大化していく。やがてそれが直視できないばかりの眩い光輝に昇華すると、ユリウスは波の最先鋒に意識を向けて、解き放った。
「……イオラ!」
宙を滑空していた光球が魔物の群の頭上に至り、形を留めておく臨界を超えたのか、激しい閃光と天を衝く轟音、灼熱の熱風を
迸らせながら弾けた。
頭上で弾けた破壊の瀑布は圧倒的な力で魔物の群れを薙ぎ払い、焼き尽くした。熱風と爆圧に打ち据えられた魔物は苦悶をあげて白砂の上をのた打ち回り、青い血潮を撒き散らす。そして力尽きて動かなくなり、その骸は宙に解けていった。
爆波を回避した魔物達は、遥か高きから攻撃を繰り出したユリウスを狙いと定め、殺到する。それはまるで支流が一つに集まり主流となる大河のような光景だった。
その勢いを目の当りにしてもユリウスは特に焦るでもなしに、冷然と同じ魔法で魔物達を駆逐している。
距離とともに高さという隔たりがある以上有利なのはこちらであり、反撃が来ない程に距離が開いているうちに、敵の勢力を減らす事は戦略の上で当然の事だったからだ。時折、隔たりを超越する翼を持った魔物が急襲してくるが、それは手にした剣で蝿を叩き落すように難無く斬殺して事なきを得る。ただ淡々とユリウスは一方的な殺戮を繰り返していた。
一体どれだけの魔物を鹵獲してきたのだろうかと思う程に、魔物の波は止まる事を見せなかった。だがそれでも確実に数は減っている。だが爆発の被害から逃れた幾数の魔物が距離を詰めて、壁を攀じ登り始めていた。
あまりに接近を許してしまうと、自らの魔法でこの建物…つまりは自分の足場を破壊しかねない。そんな愚を冒す意思の無いユリウスは、壁を攀じ登っていた魔物数匹を手すりから身を乗り出して
閃熱魔法で打ち落とし、その意志を決めた。
背中に背負ったままの槍ではなく、レイヴィスから借り受けた抜き身の剣を手にしたまま数歩下がり、駆け出しては助走をつけて最端の手すりを踏み台とし、力強く蹴って高々と跳躍した。
空中で凶牙を打ち鳴らして襲い掛かって来る人喰い蛾をすれ違い様に真一文字に断ち、ユリウスの身体は重力に引かれて落下に転ずる。
街の建物でいう凡そ三階強はあるであろう高さからの落下。下手な着地をすれば骨折は免れないだろう。しかも今、足元は針のような殺意と敵意で満たされている。犇いている魔物の狙いが宙を舞っている自分に移るのが良く判った。
そんな殺伐とした剣山を影が動き、自らの落下予測点が浮かび上がる。そこにキャタピラーが硬い外殻と鋭い鉤爪を活からせながら嘶いて、飛んで火に入る獲物を待ち構えていた。
影に群がる魔物に対して特に慌てる様子も無く、冷徹な光を双眸に湛えたユリウスは切先を下に剣を構え、淡々と紡ぐ。
「アストロン」
身体を魔力の膜が覆っていくのを感じた。やがてそれに包まれた全身は強固な金属になり、ゆるりと放物線を描いていた落下は質量の増大によって鉛直に急転する。その急速な落下に驚いて避ける事、身動きすら出来なかったキャタピラーは鋼鉄の塊と化したユリウスの下敷きとなった。爆音を周囲に轟かせて、硬い外殻に覆われた厳つい肉体は降ってきた質量による圧倒的な衝撃の大きさに圧砕、爆散して一瞬で絶命した。
落着時の衝撃の余波で捲き上がった砂塵が視界を覆い、捲き上がった怒号に魔物達はピタリとその動きを止める。
「ギラ。ギラ。ギラ」
するとその煙幕の中から声が響き、次の瞬間赤い閃光が数閃、空を疾った。
閃く熱線は狙い違いなく空中を滑空していた数匹のキャットフライや人喰い蛾に吸い込まれ、瞬時にその身を焼き尽くす。灼熱の矢に射抜かれた魔物は青い血潮を雨のように地面に撒き散らし、骸は地に落ち灰燼へと帰した。
白砂の大地は怨血に侵蝕されるようにおどろおどろしい青を吸い込み、
忌々しく染まっていった。
突然の事に、躊躇し動きを止めていた近く魔物にユリウスは突貫して、瞬時に斬殺する。
首を断ち、心臓を貫き、胴を薙ぎ、背を斬り裂く。その一撃一撃全てが必殺に値する攻撃で、返り血が糸のように線を引いて剣先に纏わりつく。その青よりもなお深い濃紺の外套を大きく翻したユリウスの足元には、既に数匹の魔物の亡骸が横たわっては消えた。
死神の如く華麗に降り立った闖入者に、狂乱していた魔物はその持ち前の野生…本能で危険を感じ取り、様子を窺う。狂乱して恐怖から解き放たれていようとも、あくまでも本能の範疇を脱するものでは無かったのだ。
その間にユリウスは油断無く構え、動きを止めた魔物の群れを一瞥していく。見渡す限りに景色を埋める圧倒的な数とこうして間近で対峙してみると、向けられる殺意と敵意はまさに大波の如く圧力を発しているようだった。かといってそれに恐怖など感じる訳も無く、ユリウスは極めて泰然としている。
太陽を反し鋭く冷厳に光る切先を魔物の大群に向けながら、ユリウスはゆっくりと双眸を伏せ、小さく呟いた。
「…………剱の聖隷」
そして力強く開眼し、押し迫る殺意と敵意の波濤に向かって疾駆した―――。
「さて、これからどうしようか?」
先程の原因不明の変調も何処へ行ったのか、すっかりいつもの調子を取り戻したヒイロが、何処か暢達な声色で言った。それには心配色を顕にしていた者達は苦笑を浮かべる他は無い。
「あたし、闘技場に行ってみたいですっ!!」
問い掛けに即座に反応し、元気良く手を上げたのは魔法使いリース。主張を強めるようにぴょこんと小さくその場で跳ねると、被っていた三角帽子が楽しげに大きく揺れた。
そのリースの明朗な笑顔をソニアは微笑ましく見下ろしている。実家である教会に居た頃でもそうであったが、子供の元気な姿を見る事は得てして、その内なる活力を自分にも与えてくれているようでソニアは好きだった。そんなリースを流石に面と向かって子供扱いはしない。殆ど初対面で親しいと言う訳でもないし、十五…自国の基準で言えば成人の一歩手前という微妙で多感な年齢で、背伸びをしてみたい年頃でもある。自分にも何となく似たような経験と記憶があるので、口には出さなかった。ただ穏やかな双眸で事の推移を見つめる。
「あのなぁリース。僕達は遊びに来たんじゃないんだぞ……」
落ち着きが無いリースに、思わず頭を抱えてジーニアスは溜息を吐いた。この王都にまで出向いたのはあくまでも物資の補給であって、観光ではない。完全に本来の目的が忘却の彼方へ旅立ってしまっているリースに辟易し、溜息が次々と零れてしまう。
咎めるようで、疲弊に染まったジーニアスの視線を受けて、リースは不満気に頬を膨らませた。
「えーっ! だって、ロマリアに行ったら先ずは闘技場でしょ! ゼノ兄だってそう言ってたじゃないっ!! 「冒険者たる者、闘技場に詰め掛けて路銀を稼ぐべし」って!!」
「…………ゼノスの奴、余計な事を」
「?」
「君は未成年だから賭け事は駄目だろ賭け事は……。いや…そうじゃなくて、必要な物資だってまだ全て買い揃えていないし、観光に来たんじゃない。目的を忘れるな」
「だから、その買出しの資金を一気に集めようって言ってんのよっ!」
「旅の資金を賭博で稼ごうとするんじゃないっ! もし負けた時の事を少しは考えてみろ!!」
「勝てばいいのよ、勝てばっ!!」
「そんな楽観、できる訳無いだろっ!」
「何よ! ジーニの意気地無しっ!!」
「そういう問題じゃ無い!!」
少しも退く様子の無いリースに、だんだんとジーニアスも腹が立ってくる。声調は高まり、こめかみが引き攣り、肩は小刻みに戦慄く。両者とも愚にもつかない遠慮無い売り言葉に買い言葉で、互いに互いを抉る言の葉の応酬は徐々に白熱していった。
ちなみにここは王都ロマリアの
大通り。最も人の往来が多い通りの真ん中である。休日ではないとはいえ、王都屈指の交通量を誇るその通りは、街往く人の波で賑わっていた。
通りの真ん中で言い合う二人を見捨て、さり気無く通りの脇に避難しては事を傍観する他の面々。
騒ぎを嗅ぎ付けて憲兵が出動してきたら面倒なので、他人を装う事にした。そうでなくても今現在は成り行きとは言え八人と言う大所帯、しかもその誰もが旅装で最低限度の武装…一般市民にとっては充分過ぎる程、をしている為に目を付けられる事は必至だろう。この平和で呑気な気風と雰囲気に充ちた国において、相反する物騒な匂いを醸しているこの集団が市中で騒ぎを起こすとなると、余り考えたくは無い面倒事に発展しかねない。
集まり始める人の群中に溶け込むように隠れながら、誰もがそう思った。
「……またか」
小さく溜息を吐くのはヴェイン。隣でウィルが困ったように苦笑を浮かべている。だがそれだけで、二人を止めようという意思も意欲も感じられない。そんな二人の様子から、日常茶飯事なのかとミコトは邪推してしまう。思わずミコトはヴェインに問いただしていた。
「…………いつもこうなんですか?」
「……割りとな」
遠く目を細め、言い合っている二人を見止めるヴェイン。冷めた口調とは裏腹に、暖色を双眸に載せた様子から、心底迷惑している、とは思っていない印象だった。
「ははは……、変らないねぇ二人とも。俺が居た時と同じだ」
「そうなの?」
少し狼狽しながら顔を傾けて問うてくるソニアに、ヒイロは懐かしそうに目を細めて言う。
「リースは赤子の頃カンダタに拾われた養子だけど、カンダタって先頭に立って隊を率いる側の人間だったからね。それで良く家を空けていて、その間の面倒をジーニアスの家族が見ていたんだ」
「つまり、兄妹みたいなものって事?」
どこか何となく境遇が似ている気がしてソニアは共感意識を抱く。それにヒイロは小さく微笑を湛え頷いた。
「そうだね。リースはジーニアスの実妹のジェシカとも仲が凄く良かったし、十三賢人“三博士・封”である彼の母親に三人は魔法を習っていたから」
「何だか、そういうのって温かいな……。盗賊団ってイメージと違うね」
「“流星”ってのは、その集団総てが一つの大家族みたいなものだからね。結束は強いよ。……それだけ嘗ての祖国を取り戻す事への渇望が強いって事さ」
「そうなんだ……」
何時の間にか往来の真ん中にできた人の輪の中心にて、取り留めの無い言い合いをしている二人を見つめるソニアの双眸はとても柔らかかった。ただ、そのやり取りを見て心に生ずる懐かしさと、同時に込み上げてくる切なさが少し胸に痛かった。
終わりを見せない二人の舌戦。この微笑ましく、平和の穏やかな時間を引き裂く恐々とした慟哭が真昼の青空を灼いた。
「!?」
「何だ?」
ジーニアスの語彙の多さと事の整合性に圧され、返す言葉が無くなり掛けていたリースがとった最後の手段…言葉無く振り降ろされた杖を腕で防ぎながら、ジーニアスは何事かと周囲を見渡した。いつのまにか自分とリースを囲むように人垣が形成されていたのを怪訝に思ったが、今はそれに気を取られている時ではない。たった今、確かに聞こえたのだ。誰かの、悲嘆に怯え泣く叫び声が。
それが自分の空耳でも幻聴でもない事を、周囲にいた人間達の慌しさが証明していた。
改めて周囲を、より遠くを見るように空を見上げる。すると街の南西の方角の蒼穹に、醜悪さに思わず悪寒を覚える黒い斑点が幾つも浮かんでいる。徐々に斑点は濃さを増し、それはその下にあった雄大な影…円形闘技場から吹き出す禍々しい黒煙のように立ち上っていた。
その中に小さな一つ、こちらに向かい次第に大きくなる影は飛翔する異形の魔物。羽ばたきながら大通りの上空を駆け、旋回する。その時、
何かがその影から分かれた。分離した
何かは勢いを伴って急降下してこちらに降ってくる。その危険性を感じた人々は、予想した落下地点から蜘蛛の子を散らすように離れ散っていく。
そして、轟音と敷き詰められた石畳を盛大に撒き散らしながら、
何かが落着した。
立ち上る土煙に視界は遮られる。最もそれの近くにいたジーニアスは警戒しながら、その
落ちてきた何かに近づく。そして見た。
「これはっ――!!」
「……人間、だね」
思わず言葉を詰らせているジーニアスの肩に手を置いて、感情を載せずに淡々と呟いたのはヒイロ。
その言葉通りに鮮やかな紅と土埃に塗れ、四肢の所々がありえない方向に拉げ、千切れ、五体の幾つもが欠け落ちて足りないそれは、確かに人間、いや人間だったもの。落着の衝撃に崩れず形を留めたままの肉体には、魔物の爪牙による裂傷、刺傷…蹂躙され尽くした痕が惨たらしく幾つも刻まれている。
あまりに無残なそれと立ち上る濃厚な香りにジーニアスは顔を顰めたが、眼を逸らす事は出来なかった。すぐ傍に来ていたウィルやヴェインは深刻そうに目を細め、リースやソニアは小さく嗚咽を零していた。
覗き見るように集まる野次馬が、落ちてきたそれが何なのかを認めると、悲鳴と混乱が場に擾乱した。
「ひぃぃぃぃぃぃ~~!!」
「うわあぁぁぁぁぁあ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁあ!!」
「ま、魔物だあぁーー!!」
誰かが空を指差して叫んだ。慌ててそちらに視線を移すと、急降下してきた数匹のキャットフライをミコトとアズサが撃退している姿だった。
数をもって空中から急襲してくる魔物の群に、賢者ウィルは杖を翳し魔法で迎撃する。
「ベギラマ!」
杖先から閃く幾つもの熱線は、狙い通りに魔物を打ち落としていく。だが圧倒的な数を前にそれはあまりに効果が薄かった。眉間に皺を深めてウィルは、蒼い外套を大きく翻しては左手の指先で宙をなぞって印を描き、杖でそれを小突くように翳し、紡いだ。
「イオラ!!」
疾空する数個の光球は空を席捲していた黒の波に吸い込まれ、烈光を放って炸裂する。その爆裂によって魔物の群れは爆散し、通りの街路樹、建物の屋根と壁、敷き詰められた石畳、そして人の群に焼け焦げた肉片と、異質な青い血の雨が降り注いだ。
普段見る事のない惨劇にロマリア一華やかな大通りは、こうして人々の嗚咽と悲鳴に塗装されていった。
「何が……、一体何が起こっているんだ!?」
背中に背負った紅蓮の剣を引き抜いて、飛び掛ってきた蝙蝠男を大上段から一刀両断しながら、ジーニアスは叫ぶ。碧空の双眸は、尚も黒煙を発している闘技場の方角を見据えたまま。
だがその問に答え得る者は、その場にはいなかった……。
―――開眼し、視界に飛び込んでくる世界は酷く懐かしい景色だった。
視界を流れるそこに在る者全てを構成するのは清冽な白と黒と、そして灰色。この温かみも冷たさも無い彩の消えた世界。夢ではなく現実に、ここが本来自分がいるべき世界であり、己という意識を放棄して再び手に入れるまでに在った世界だ。
ここで飛び散る濃密な黒色の液体は、自分の物なのか敵の物なのかすら判らない。単純明快に眼前の敵が倒れればそれは敵のもの。逆に自分が倒れれば己のもの。ただそれだけの、命を搾取し
簒奪しあう純粋に生と死が鬩ぎ合うだけの世界。
二人に出会って以来、自分はそこから乖離してしまっていたが、ようやく還って来る事ができた。
目的を果す為にはここにいる事が必要不可欠なのだ。ここに居る限り自分には無駄な感情など一切無い。
ただ闇雲に剣を振るい、ただ冷徹に向かって来る敵を根絶する為の策謀と行動を永遠に繰り返し、ただ永劫に同じ役割を延々と歯車の如くこなすだけ。
ここに在る限り、もはや自分は人ではない。この全身はただ一振りの剱。魔物を、敵を、目の前に迫ってくる全ての相容れない者達を切り裂くだけの、冷たい剱。
剣を振るう度に自分を覆っていく黒の液体。それは幼少より浴びてきた、最も慣れ親しんだと言っても良い魔物の返り血。毎日のように来る日も来る日もそれを浴びてきた自分にとって、それと同種の血肉を肌で感じる事など造作も無い事だ。
舌先で黒に塗れた唇を舐める。ざらついた何かがこびり付いている…それだけだった。
既に自分の中からこの世界に在って役に立たない嗅覚と味覚が消えていた。その分視覚と聴覚、そして体の感覚が異常なまでに高まり自分と同じ異質を感知する。
(牙を剥いてくる敵全てを、……殺すんだ)
何かに疼いているのか、左胸の奥の心臓がドクンと高鳴った。
全身に
闘気を漲らせて、闘技場の中心に向かってただ前に前に疾駆する。
そんなユリウスの前進を阻むように、巨壁の如く立ち塞がった暴れ猿。暴力という言葉そのものを体現した巨腕を振いユリウスに迫ってくる。その圧倒的な威力を秘めた横薙ぎの一撃を、ユリウスは身体を沈めて潜り抜け、踏み出し地を蹴っては
颶風の刺突をその左胸に叩き込んだ。その剣は寸分違い無く、何の抵抗も無く魔物の心臓を貫き、断末魔の叫びをあげる暇無く凶暴化した大猿は絶命し、仰向けに倒れた。
深深と突き立てた骸から剣を抜く前に、後ろ上方から鋭爪を振り被って来たキャットフライに対し、ユリウスは背負った鋼鉄の槍の柄を繰って狙いを定め、そのまま魔物の方へ跳躍する。回避ではなく、逆に接近するという予想外のその行動に吃驚し刹那身を竦めた魔物に、急昇する鋭い刃はその胴体に深深と吸い込まれ貫通した。腹と背から槍を生やしたまま苦痛に喘ぐ魔物がもがく度に、髪に、肌に、外套に、槍に温かい青い血の雨が降り頻っては染めて行く。それに眉一つ動かさないまま器用に槍を繰って、ユリウスは最早邪魔以外の何者でもない
鋒先についた
錘を振り落とした。
意識を圧す余計な色彩が無い分、酷く視界が明瞭で、敵対している魔物達の動きが遅くさえ感じる。敵の体勢、威嚇の唸り、呼吸の緩急、地を踏みしめる音。それらの全てで次にどのように動いてくるのか容易に想像が出来た。
そんな視界の隅で数匹のポイズントードや蝙蝠男が一斉に飛び掛ってくるのが見て取れる。ユリウスは構えたまま手にした剣を腰の辺りに引いて力を溜め、剣の間合いギリギリまでに敵を引寄せては裂帛の気合と共に一閃する。すると闘気で強化され弧月を描いた剣閃は、途中で阻まれ止まる事無く数匹の魔物を引き裂いていた。
ある魔物は首を、ある魔物は腹を。ある魔物は鋭い爪を、ある魔物はそれを翳した腕を断たれていた。それでも勢いが衰えなかった魔物の身体の一部…この場合は牙や爪がユリウスの肩口や腕に深深と突き刺さってきたが、既にユリウスに痛みは存在していない。精神と肉体の繋がりが灼き切れて別々に活動している以上、肉体的な痛みに精神が怯む事は無い。
苦痛に顔を歪める事無く、動かなくなった魔物を冷めた眸で一瞥し、ただ淡々とユリウスは身体についた
埃を払い去った。
魔物の群れに対する漆黒の眸が冷酷に、凄絶に。危い程に鋭利で極寒の光を湛えていた―――。
一行が闘技場の付近が黙視できる場所に立った時には、そこは死屍累々の惨状だった。
石造りの建物は瓦解し、街路樹は軒並み薙ぎ倒され、石床は無残に抉られ、そして人や、
人であった人達は力無く地面に伏してその身を紅く染め上げている。何処からか立ち上った炎は煌々と赤く
景色を焼き、歪む景色はそこから恐怖を撒き散らしていた。
小さな子供の泣き声がする。女性の甲高い絶叫が木霊する。男性の断末魔が響き渡る。それさえも無慈悲に踏み躙っていく魔物の狂喜の咆哮が高く天を衝く。
そこは、今の今まで流れていた平和を思うと、まさに地獄絵図といって差し支えが無い凄惨な景色だった。
積み重なる、蹂躙され嬲り殺された人の骸があちこちに横たわっている。その中で、動かぬ女性の傍らにすがり付いてその身を揺さぶっている小さな子供がいた。二人の傍らにあった瓦礫の影からキャタピラーがヌラリと現れて、その子供を獲物と定め狂爪を振り翳していた。
今まさに、その子供に襲い掛からんとしている魔物に向かって、ジーニアスは吼えた。
「やめろぉぉぉおお!!」
叫呼と共に紅蓮の刀身の青い秘石は輝き、間合いの遥か外から突き出された剣先から、煌きながら不形の炎の刃が光芒の如く疾空する。その半透明に、硝子の如く凄烈に光を返して輝いているようにも見える烈刃は、真っ直ぐに魔物の身体に吸い込まれ、その身を焼いた。魔物の骸、その肉片一つすらをも残さずに焼き尽くし、灰にすらをも呑み込む烈炎の昂ぶりは、ジーニアスの怒りの具現だった。
「すごい……」
驚愕に目を丸くするソニアの声を耳にしたまま、実際に魔剣の能力を目の当りにアズサは、剣士として呟いた。
「間合いなぞお構いなしか。あの剣、欲しいのぅ」
「……そんな悠長な事を言える状況じゃないって」
場違いなアズサの呟きに、小さくミコトは嘆息していた。
「お母さん、起きてよ。お母さん、起きてよ」
助けた子供の傍に駆け寄ったソニアとリースとウィルは、泣きじゃくる子供の傍らで、紅蓮に身を染めている子供の母親らしき人物を見て顔を顰めた。即座に膝をついてソニアとウィルは回復魔法を紡ぐ。
「霊聖なる生命の光よ。失われし欠片を糧に、新たなる命の芽を……っ!!」
「べホイ……これは、もう…………」
手を翳し光を発しかけるも、それは潰える。ソニアは辛そうに顔を歪めながら手を握り締めた。
その様子に怪訝に思ったジーニアスが歩み寄って顔を向けてくるも、ソニアは双眸を伏せて小さく頭を振るだけ。同じく回復魔法をかけようと横に膝を突いていたウィルにジーニアスは視線を送る。
「ウィル?」
「…………残念ですが」
既に事切れています。と言うようにウィルもソニアと同じ苦渋に満ちた表情で頭を振るだけ。小さく呟かれた宣告は、何かに耐えるように震えていた。
「くそっ!」
悲嘆に充ちた両者のそれを見て、ジーニアスは強くした唇を噛む。温かで息の詰る感触が咥内に広がった。やりきれない思いが全身を駆けて、腹の底から沸々と滾る何かを押えるのが精一杯だった。
動かない母親の傍で佇む見知らぬ若者達に、子供は縋るように見上げてくる。眼球が
眼窩から零れ落ちそうな程に開かれた両目からは、止め処なく涙が溢れ出ている。
「ねぇ、お兄ちゃん。お姉ちゃん。お母さんを……、お母さんを助けてっ!」
「…………っ!」
必至で訴える涙目の子供を前にして、胸の内に生まれた苦しさに耐え切れなくなって、ソニアはその子供を抱きしめた。小さな肩を震わせる子供の嗚咽がソニアの心と瞼を灼いたのか、きつく閉ざした眸から涙一筋零れ落ちてしまった。
「お母さん! お母さんっ!!」
魔物の咆哮と、人の絶叫と。耳に残る悲劇の喚声の中で、その子供の泣き喚く声が最も心に重く圧し掛かっていた。
「混濁たる空蝉に彷徨う無垢なる流れよ。真なる理の交響にて、在るがままに還れ。トヘロス!」
ジーニアスは膝を着いて地面に手を当て、光の結界を造り出す。顕れた天球状の光に覆われた安全な場所に、周囲で被害にあっていた怪我人達を誘導し、立ち上がった。
「……ウィルは怪我人の回復を。リースは辺りを警戒してくれ。できれば、ソニアさんはウィルの手伝いをお願いします」
言葉なく頷いた三人を振り返らずに結界から出て、ジーニアスは猛威を振るっている魔物の下へ歩き始めた。震える手で握り潰さんばかりに力を篭めた紅蓮の剣。その刀身が、ジーニアスの中で生まれている昂熱を糧にして炎を滾らせているかのように、朱紅の光を発していた。
漸く得た自由に揚々と暴れ回っていた魔物達は、同胞を打ち倒した者達を敵と認識していた。
翼をうって悠然と空を飛ぶ魔物が、その敵達の死角を狙って攻撃しようとした時、突如閃いてきた炎の刃に斬殺される。
その骸が地に着いたのを皮切りに、魔物の群れが一斉に敵意の視線を一方に向けた。
束ねられている殺気の向く先には数名の人間達が立ち構えていた。
ヴェイン、ヒイロ、ミコト、アズサといった接近戦ができる者達はそれぞれの武器を繰り、次々と魔物を討ち倒している。誰もがこの地獄を生み出した魔物に対して激しい憤りを抱いており、その気迫は怒りとなって彼らに更なる力を与えていた。
そんな彼らの後ろから歩いてきたジーニアスは、ゆっくりと彼らを越えてその先頭に立ち、俯いていた顔を上げる。殺伐とした風に優麗に靡いている黄金の髪の下で、涼やかな色彩の碧空の双眸は激情に駈られていた。
ほんの少し前まで、確かにここは平和だった。それを無残に無慈悲に蹂躙した魔物達が、どうしても許せない。許せるわけが無い。
「どうして――」
魔物が人語を解するとは思っていない。だがジーニアスは叫ばずにいられなかった。
「どうしてこんな事ができるんだ! お前は! お前達はっ!!」
手の中で脈打つ烈炎の剣の激しさが移ったかのように、その眸は怒りに煌々と燃え上がっていた。
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