――――第五章
      第六話 零落する沙







 太陽神ラー教団の総本部、ラー大神殿。
 二対の翼ある一人の女性を象った像が、礼拝堂である“光臨の間”に席捲していた。
 その金色に輝く女性像は右手に十字を抱いた剣を、左手に天使が座する杖をそれぞれに掲げ持ち、纏う天衣は清楚な作りながら神の清浄な息吹を感じさせる。そしてその両腕には、装飾品としては些か無骨な一対の腕輪が嵌められていた。
 それらはイシス四聖宝と呼称される聖王国イシスの門外不出の国宝である。無論、像を装っているそれら四宝は本物ではないが、本物と見紛うまでに細緻な彫刻、現実感の在る佇まいで女性の肢体を着飾っていた。
 凝縮された四光の結晶である四聖宝を従わせる姿は優偉かつ麗雅。神々しい存在感を放つその女性こそ太陽の化身…悪しき者には右手の無垢なる亡びを与え、善き者には左手の清冽なる救いを与えるという光の戦女神、ラーを象った神像である。




 由緒正しく気品あるイシス王室親衛隊の隊服…白を基調に蒼紫の色彩から成るそれに身を包んだアズサは、黄金の女神像の前に立ち、固く握った右手を胸元に当てた姿勢で黙祷を捧げていた。凛とした雰囲気を醸す佇まいは、イシス軍における敬礼の型だ。
 明朗快活な性質のアズサが、軍装のままで粛然と礼拝堂に立ち祈る姿は何とも場違いに見えるが、アズサとてイシス国民としてこれま生を歩んできた故に、例に漏れる事無くラー教徒である。そしてラーの化身たる女王を守護する親衛隊は、一般のラー信徒…つまり国民からすれば尊ばれる栄誉ある存在である。そんな古よりの風習の為か、イシス王室直属部隊…親衛隊、及び近衛隊の隊服は礼装であり、法衣でもあった。
 だがそれ以上に、アズサ=レティーナという個人は戦女神の右手に掲げる“不死絶殺”を持つ“剣姫ネイト”として国家的にも、そして宗教的にも大きな意味を持つ立場にある。
 四光の一つを担う彼女がこの礼拝堂にいる事は、ごく自然な日常的な光景として人々に認知されていた。

 光臨の間に佇む神像に平伏すよう列せられた幾つもの長椅子には、他にも何人かの影が見えたが、どれもが熱心に祈りを捧げているのか俯き、瞑目したまま。だがそれも戦時下のこの地にあっては当然の事なのかもしれない、とアズサは思う。
 誰もが見えない明日を思うと不安を覚え、それが自らの生命に関わる事であるならば常々拠り所としている神に縋ろうとするのは自然な意識の流れだ。恐慌にこそ至っていないが、祈るという行為によって辛くも自己の安定を繋ぎとめているそれぞれの姿を見ると、先日ユリウスに痛烈に指摘された、安全な場所に胡座を掻く、という危機感の薄さを払拭できるような気がしてホッとしてしまう。
 守るべき人々の暗澹を見て安堵を吐くのは立場上、そしてそこに生きる一人の国民として不謹慎極まりなく支離滅裂な事であるがそう実感せずにはいられなかった。……もっとも、そんな思考行動そのものが無意識下でユリウスの言を認め、幼稚にただ反発しているに過ぎない事を、アズサはまだ気付いてはいない。
(……いかん、雑念が多いな)
 信仰する女神ラーに祈りを捧げにこの場に来た筈だが、何時しか思考は別の事に支配されている。それを改めて自認し、アズサはざわめく自らの胸中を律してきつく双眸を伏せた。
「良く無事に戻られました、アズサ」
 そんな折、こちらの波立ち際のざわめいた思考を落ち着かせるように、清澄に満ちた声が掛けられた。
 その声を捉えた瞬間、アズサは柔らかで暖かい草原の風を感じたような錯覚を覚えた。とても清々しく心地よい韻を踏む声の主が誰なのか、即座に脳裡に思い描いてはゆっくりと瞼を持ち上げる。そして声の主に、親愛と敬意を込めて深々と頭を下げた。
「は、イスラフィル司教もお変わりなく。ご挨拶に参詣する事が遅れてしまい申し訳ありません」
「気に病む事ではありません。貴女の無事な姿を見られたのですから、ラーに感謝を捧げなければいけませんね」
 畏まり、恭しく綴るアズサに、たった今礼拝堂の奥の間から姿を現した女性は、淑やかな慈愛に満ちた光を灯す眼差しで微笑む。
 現れたその女性は、ラー教団の高位司祭が袖を通す純白の長衣の上に、同じく白地に金糸でラー教団の紋章が刺繍された豪奢なローブを纏っていた。そのローブを纏う事が許されているのは、国内外を併せて数万とも言われる信者を抱えるラー教団において、ただ三人のみ。教主たる大司教を支える三司教だけだった。
 つまるところ、眼前の女性はその遙かなる地位に立つ者の一翼を担う人物なのだ。




――太陽神ラー教団は、実質的に三人の司教の合議によって運営されている。
 教団内での上下関係を鑑みるのであれば、運営には頂点たる大司教も組するべきなのだが、現実にそうなってはいない。教主はあくまでも神の声を聞き人々に伝える代弁者としての側面…つまりラー教を象徴する教団の顔ともいえる立場であらねばならなかったからだ。そしてその事実は、教主が教団の頭脳には成り得ない事を暗喩し、宗教国家であるこの国の政治に神の絶対性を利用されまいとするせめてもの配慮だった。
 何故このような神権分離が必要であったかは、単純明快な事。太陽神ラーの代弁者である教主が、ラーの加護を直接受けた人間…ファラオの血統を受け継ぐ直系の子孫。即ち歴代の聖王国イシス国王である事に起因する。
 国家と教団。それぞれの組織の旗頭である聖王国国王は教団教主を兼任する、という事実は少なからず両組織間の癒着干渉を齎す隙間を生じる事になった。王国と教団の地位を直接的に比べる事はできないが、それでも教団の高位神官は並みの貴族以上の発言力を持ったまま、国政に神の権威を挟む事が多々あったという。国家に従属している貴族は並みの神官以上の権限を以ってして、教団の掲げる教義を私利私欲に塗り替える事が多々あったという。
 神聖に荘厳な外殻の内で繰り広げられる酷く人間的な卑俗な意識の流れ。その最悪の結果として上げられるのは、神の名の下に・・・・・・真意を覆い隠され行われた侵略戦争である。砂漠地帯を基とするイシスの国家領土を拡大するという大義しか存在しない戦いに赴いた者達は、信仰心と言う何者にも揺らぐ事の無い一途な精神、それはある意味狂気とも言える意志を以って軍勢を止まる事無く押し進めた。
 だが戦いはいつか終わり、その痛手を最も蒙ったのは信者である国民達。その傷跡は惨憺たる有り様だと歴史は語る。
 権力の局所集中による暴走を恐れた時の教主…つまり数代前のイシス国王は、それを妨げる為に神権分離政策を施行して、それぞれの独立化を図った。その当事に設立され世界に多大なる影響を与えた“協会”という機関の存在も相まって、その政策は人々の中に瞬く間に浸透し、受け容れられる事になる。人々は信じるものの差異で血を流す事の無常さを悟ったからなのかもしれない。
 だが、王その人がファラオの血族でラーの化身であると言う事実だけはどうする事もできず、王位に立つ存在は形骸化された教主の座に着く、という事が古よりの慣習として神の血潮と共に連綿と受け継がれてきた。

 以降ラー教教主が教団の祭事以外に陣頭指揮を執ったと言う事実はない。そして国王としてまつりごとに神の名を利用された事実もない――。




 アズサの前に立つラー三司教の一人であるイスラフィルは、この大神殿に従事するラー教団の全神官達を指導する立場にある女性だった。その声、その容姿…彼女を構成する全てがこの国を治める女王の面影と重なるところがある。だがそれは当然の事。司教の任にあるこのイスラフィル=メウト=ソティスは、現女王ネフェルテウスの実妹であるのだ。王家の血を持つ故に彼女は教団の外形を整える事はできないが、それよりも内部に眼を向け、ラー教団という組織の統制に徹底する事で司教の任を全うしている。
 その為か、どのような身の上の人間に対しても分け隔てなく慈愛を持って接し、何時しか女神ラーの一つの側面“霊療ネフティス”とまで信者内では称されるようになっていた。
「浮かない顔をしていますねアズサ。……何か悩み事でもおありですか?」
 イスラフィルは何処か翳が掛かったままのアズサを見つめて、緩やかに双眸を細める。そのたおやかさは正に母とも言える大らかさだった。
「あ、いえ……何でもありません」
「そうですか」
 何かを口にしかけて、結局は言い淀み俯いたアズサを見つめ、イスラフィルは彼女の隣に並び立つように移動する。そして憂いや不安さえをも包括する深みある双眸で、眼前に立つラーの女神像をじっと見つめた。

 二人を含め、祈りの最中にある礼拝堂は涼やかな静謐に満たされている。
 天井に備えられたステンドグラスから零れる清冽な光によって、堂内の空気に潜むように浮かんでいた塵芥がチリチリとなぶられる。その音が耳鳴りという形質をとって鼓膜の奥にこびり付いていた。
 雄偉に参拝者を睥睨する神像を前に、並立する二人の間に言葉は無い。だがその重い筈の沈黙の中でアズサは人知れず安堵を吐き、何も追及する事無く隣に佇むイスラフィルに感謝さえ覚えていた。もし優柔な言葉を掛けられていたのならば、こちらの感情を大きく揺さぶられ、次から次へと胸の奥底に溜まった悪しき汚泥の感情が止まらずに溢れ出していたかもしれないからだ。
 アズサにとってイスラフィルとはそれが出来る人間の一人だった。だからこそ“剣姫”として今の自分がある以上、彼女に必要以上に甘える事は避けたかった。
 懺悔をしたような気分になったアズサは、やがて隣の彼女に倣って女神像を見上げた。
 黄金からなる神像は燦然とした艶を放ち、何かしらの魔法的施工がなされている為か決して朽ちる事無く、完成した当初の姿を幾星霜を超えても保ち続けていた。
 余りにも清らかな水には魚が棲まないように、その澄み切った神像の表情はこの上なく無表情を貫いている。だが今、本来無機質であるその双眸は外から射る陽光を浴びて温かな輝きが燈っているようだ。柔らかな陽光のヴェールを纏うその様は、まさに太陽神ラーとして相応しい御姿だとアズサは思った。

 どれだけそうしていたのか定かではないが、外の太陽が動いた為か神像に射していた光は何時の間にか自分達に降り注いでいる。ひんやりとした礼拝堂にあって、温かな奔流は身体はおろか深々に掛かっている心の靄をも綺麗に振り払ってくれるようだとアズサは実感していた。
 女神を見つめるアズサの表情が和らいだのを見止め、それを待っていたイスラフィルは徐に口を開く。
「“アリアハンの勇者”殿を加えられた会議は終わりましたか?」
「はい、恥ずかしながら一騒動は起こってしまいましたが……。現状、守りに徹する事に全力を注ぐという指針に決まりました。外郭楽園畿内は、対外勢力にとって不可侵領域……これまで国を守ってきた偉大なる先人達の名誉の為にも、そして今を生きる我々自身の為にも」
「……」
「聖双導器は二つ揃いました。これで私が少しでもユラの負担を軽くする事ができる筈です」
 黙したまま聞き入るイスラフィルに、己の言葉を確かに理解して貰う為、そして自らに言い聞かせる為にアズサは腰に佩いていた聖剣を鞘ごと掲げる。降り頻る陽光の下、その剣は己が存在を主張するように煌々と光を反していた。
 それを見止めたイスラフィルは安堵か、或いは別の思惑からか目元に緩やかな丘を作る。
「アズサ……貴女の眼から見て、これからの戦端はどう動くとお思いですか?」
「……正直なところ、このままの膠着を続ける事は無いと言えましょう。ですが、これから変わるであろう戦端がどれだけ熾烈を極めようとも、敵がどのような策謀を弄していようとも、我々はただその陰影を打ち払うのみ。“剣姫”として、それ以前にこの国に住まう一人の民として、この国を守る為の戦いは私にとっても望む所です」
「頼もしい心掛けですね。……ですが知っておいて下さい。擁いた光の決意が眩く強ければ強い程、その反要素たる闇の昏さも深淵であるという事を」
 決然と言い放つ“剣姫”を、その昂ぶっている気勢を宥めるように“霊療”は緩やかに言った。
「人とは脆く、崩れやすい存在。光の中をうつろい、闇の方に傾き易く、容易に絡め取られてしまう存在なのです。皆が皆、貴女のようにつよく真直な意志を持っている訳ではない、という事を忘れないで下さい。……貴女が、周囲から孤立してしまわない為にも」
 柔らかな声で訥々と語るイスラフィルに、アズサは神妙な顔をして聞き入るばかり。そして最後に放たれた穏やか過ぎる警告は、深く深くアズサの胸を貫いた。
「イスラフィルさま……肝に銘じておきます」
 耳の奥から入り、自らの裡で渦を巻いている言葉の余韻は、消える事無く深い闇の先から絶えず自分に、嘗て抱いていた傷みの痕を抉るように囁きかけてくる。そこからくる震えを誤魔化す為に、固く握った拳を胸に当ててアズサは姿勢を正してラーを見上げた。
 黄昏の輝きを纏った女神は、眼下で祈る人々の様々な想いを受け止めるも、ただ無為に虚空を睥睨しているだけだった。



「そういえばつい先程、ティルトがいらしました」
「ティルトが? それは珍しいですね」
 パチリとアズサは眼を瞬かせて、隣のイスラフィルを振り向いた。その表情は全く予想だにしていない事を聞かされた時のもの。自分と違い、生粋のイシス人であるティルトが主たるラーを快く思っていない…いや、寧ろ嫌悪している事をアズサは知っていた。だからこそ、蛇蝎の如く疎んだ嫌悪感情の極点であるラー大神殿に来る事など思いもよらなかったのだ。
 ティルト=シャルディンスは、アズサと同じ師…先代剣姫の下で学んだ同門の徒だった。同じ時期にその門戸を叩いた二人は今でこそアズサは剣を、ティルトは槍を己の極めるべき武器としてそれぞれ定めているが、嘗ては互いに剣の道を志し、高め合ってきた親友でライバルでもあった。
 またシャルディンス家はイシス王国史に名を連ねるまでの大魔道士を代々輩出してきた家系で、彼女の父は十三賢人“四華仙・律”、そして実姉は砂漠の双姫“魔姫”。偉大な魔法使いとして存在する父と姉、そんな二人に比べてティルトは…魔法を全く扱う事ができなかった。その事実が周囲から彼女に、彼女から周囲にへと深い溝を刻む事になり、“ラーの恩寵を受けられなかった者”として蔑まれ、ティルトは永く冷たい孤独の中で生きていた。
 容姿から一見して周知の事である、生粋のイシス人ではないアズサも嘗ては同様の境遇にあり、お互い直ぐに親交を深める事ができた。おそらく互いが孤独という傷と無聊を慰め合うのに最も適した相手である、と無意識に理解していたからなのかもしれない。
 時は流れて、その時の感情も立場も変容をきたしたが、ティルトとの友情は何も変わらないとアズサは思っている。
 そんなアズサが友のらしからぬ行動を怪訝に感じ、その事を伝えたイスラフィルに言葉の無く視線で問う。それを認めたイスラフィルは、やはり二人の事情を察しているのか、ただ首肯した。
「あの子もまた、上手く形にできない悩みを抱えているようですね。アズサ、あの子はとても繊細で頑なで、脆い。これは私の見解ですが、あの子は何かを求め得ようとする余り、生き急いでいるように見えます。もしも彼女からの救いの求めがあったのなら、助けになっておあげなさい」
「はい。それは友として当然の事です」
 毅然と顔を引き締め、澱み無く断言するアズサにイスラフィルは満足げに微笑むのだった。








「ここが図書室になります。こちらにある書物ならばご自由に閲覧してくださって構いません。ただし、持ち出しは禁止されています」
 王宮に附属している図書室の司書官にそう言われたのを最後に、ヒイロは書机に分厚い本を幾つも積み上げ、紙面に広がる文字の羅列に視線を走らせては知識の採掘に陥っていた。読み終えた本を無造作に机上に積み重ね、休む事無く傍らで山を形成している未だ手のつけていない本を攫い読んでいる。ただひたすらに読み耽るという単純作業の中で築かれた山は相当なものになっていたが、それでもこの図書室に納められている蔵書総数からすれば氷山の一角の、一破片に過ぎない。
 図書室は場所の性質上か書の頁を捲る音と、ランプの火が空気と共に塵芥を貪る音だけが支配している。静寂の場で空気の変遷が見込めない閉塞した所にありながら、学究を本分とするヒイロは充実を感じていた。

 一字一句貪るように目線を這わせながら、ヒイロは今、一冊の古ぼけた書物を読んでいる。
 眼前に置いたランプの光が、時間に色褪せ朽ち始めている書物を容赦なくなぶり、その書が相当に年代物であるという事を示す。一般閲覧可能の書棚に列挙していた事から、この本はこの国にとってそれ程重要視されていない物なのかもしれない。だがその装丁は歴史的に価値のありそうなまでに独特の、蒼枯な気品を醸していた。
 これまで読んだ物と毛色を異にしている書を破らぬように、静かな興奮を抑え慎重にヒイロは頁を捲る。


 大空を往く―――白煌に愛されしは、悠久を―――砂
 ―――事を渇望せし者、天を―――――うも叶わず。押し寄せる――を前に、ただ地に――――
 ―陽を越え、漆黒の―――昇りし時。飢渇に―――う者共、歓喜の中で――――げる
 彷徨える――を縛り付けし――の柩、―――なる寝所
 還りし者、彷徨せし者と―――――を刻み鳴らし、乖離せし二条の聖なる輝き、――散らす
 天を周回する円し――――。西から東へ、東から西へ。その軌跡、地に刻み残す
 ――ぬ永久なる時の中で、安息を得ていた―の目覚め
 空に昇りし四昂――、地に迸るは――星。翼有る天輪が―――時。原初の――――――門、開扉する
 空高く顕現せしは――――濁流。其が奏でるは、柔らかなる――の、福音の音
 ――――つ者共、慙愧に堪えず見上げるは―――――
 滴る雫は―――紅沙に染み渡り、――――を照らす鮮光は、――回天の紡――――らせる
 猛る百獣の―――――せし、雷――、―焔と、轟――――成す――を


「……劣化が激しくてこれ以上は読めないな」
 最後の章節を読み終えてはそっと静かに本を閉じ、ヒイロは大きく息を吸い込んで瞑目する。そして、今得た断片的な情報を脳内で編み直した。
 ヒイロが熱心に読んでいた書物は、その記述の総てが妖精言語によって綴られており、普通の人間には解読する事など普通は不可能である。ヒイロ自身も古代遺跡の調査を生業としてきた為か、古代魔法紋字を始めとするその手の知識に造詣は深いのだが、それでも絶え絶えで幾つか単語を読める程度のものだった。そんな事実にも関わらず、今の今まで読み進める事ができていたのは、嘗て誰かが解読に挑戦し付け加えたであろう注釈を眼で追っていたからに他ならない。だがそれでも紙の劣化は激しく、インクの滲痕と相まって意味を把握できた部分はごくごく一部だけだった。
(何とか読めた文面は余りに抽象的過ぎて、一貫性に欠ける。イシスについての記述に間違いは無さそうだけど、歴史を綴った文献なのかは疑わしいな。その上、妖精言語を記述主要言語としているとなると……この書の意味は大きく違ってくる)
 妖精言語を扱うのは、その名の通り妖精種に属するエルフやホビット等の種族と、妖魔種に分類される半分の種族である。……余談ではあるが、妖魔種の残りの半分は竜言語を主体としていると言われている。
(しかし、妖精言語をここまで解読できるなんて……この注釈はよほど高名な魔術師が書いたんだろうな)
 未だ見ぬ記述者に感銘を覚えながらヒイロは考えを続け、ぐるりと自分が読み終えた書の山脈を見渡した。
 何はともあれ、人間以上の存在である妖精、或いは妖魔が残した文書に人間国家における事象が記述されているとなれば、その事実は怪奇としか言いようが無く、そこに過去の歴史以上の事が関わっていると考えるのが自然だろう。
(流石は宗教国家というべきか……他の本は概ね、ラーを主観としている側からの視点で書かれているから整合性は保たれている。その点から考えてみても、この本は歴史書の範疇に当て嵌めるに相応しくない。これは余りに――)
 改めて両手に持ったその書物の装丁に眼を落とす。本を掴む指先、掌、そして腕までが微かに震えていた。
「興味深い文献だ。持ち出し禁止なのが悔やまれる」
 自然と自分の奥底から沸々とした昂揚を、知らず笑みを浮かべていたヒイロは感じずにはいられなかった。




 探求に興じるのもそこそこにして、ヒイロは長時間椅子に座った姿勢で固まった筋肉を解す為に背筋を大きく伸ばす。そして同じく酷使した目の疲れを和らげる為、目頭を摘んでいた。
 昼下がりの時間。余暇を悠々自適に過ごす事ができたのはとても久しぶりだな、とヒイロは改めて思った。
 実際にアリアハン以降は、生と死が背中合わせの中々に密度の濃い日々が続いていたから、読書に没頭する暇すら無かったと言える。その反動で書物を読み漁り、山を築いてしまったのは少々自制が足りなず、自分に正直になり過ぎた所為だろう。
 そう考え至り、ヒイロは思わず苦笑を零す。
 だがそれも束の間の安息。戦時中であるこの国で、そんな余裕に浸っているのは実に不誠実で、この地に住む人々に対して申し訳の無い事だ。
 そう自分に言い聞かせ、弛緩した意識を引き締める為に、ヒイロは持ち込んではいたが読書に集中する余り放置されていたコーヒーを啜る。既に冷め切ったその苦さと渋さは、責め立てるように味覚を虐める。喉に残る渋さに自嘲で口元を歪ませながら、ヒイロは眉間と頬を強張らせて一気にカップの中身を飲み干した。
「おや? 貴殿は……例の“アリアハンの勇者一行”の一人だったか」
「え、ええ……まあ」
 不意に掛けられた声に、苦渋に引き攣っていた表情を潜ませてヒイロは返す。だが掛けられた声は余りに唐突で、且つ自分も口腔に広がる苦さに気を取られていた為か、その返事は酷くお粗末なものになってしまった。
 もっとも、誰かが近付いてきているのは足音、そして気配から察してはいた。だがそれが自分に向かっているとは思いも寄らなかったのだ。慌てて目線を走らせるも、自分が座る席の周囲には誰も腰を下ろしていない事を認めて、そこでようやく声が己に向けられたのだとヒイロは覚る。そして改めて声の方を振り向いた。
 そこにはイシスの宮廷魔術師が纏っているものと同種の、だがそれよりも遙かに高位である事を示す荘厳なローブを纏った青年が立っていた。歳の頃は三十の半ばに差し掛かった程で、精悍な面立ちと切り揃えられた濡羽の黒髪による厳格な印象が貴い気品を漂わせている。そして何より、その相貌の作りはごく最近に相見えた事があるような既視感をヒイロに覚えさせた。
 数冊の書物を腕に抱え立つ彼は、凡そ初対面で向けるようなものではない、蔑むような冷やかさを湛えた双眸で見下ろしていた。それは先程、イシス将兵達に向けられた物と同種…いやそれ以上に無遠慮で辛辣だった。
「貴殿らが劣勢である我が国に協力して頂ける事に、王家の一員として感謝を申し上げよう。貴殿らの働きに期待している。せいぜい我らの邪魔をしないでもらいたい」
 慇懃に放たれる火を見るより明らかな非友好的な物言い。鷹揚に綴られるそれは続けられる。
「ラーの使徒たるこの国の人間は夜を恐れる。夜の象徴である月と星も同様にな。それ故に人々は燦然と絶対性を持って輝く太陽を何よりも尊び、その威光に満たされた昼を貴ぶ。生命の火、意志の煌き、未来への輝ける道標……それらの言葉を体現する確かな存在として太陽があるのだから……。だが例え貴殿らが太陽と共に東から来た者・・・・・・であっても、所詮は他国の人間……不要なまでに我が国の事情に立ち入らない事が身の為であると忠告しておく」
「…………」
 自らの言に陶酔するように男は語る。それにヒイロは徐々に目を細め、冷静な眼差しへとなっていった。
「“アリアハンの勇者”にも伝えておくがいい。着飾れた場所に祭り上げられた光など、真なる輝きを秘めた光の前には影として消えるのが世の習い。陛下が認めている以上、この地での貴殿らの行動に対して、私に口を挟む権限などないが……分を弁えるよう心がけよ、とな」
 命令口調で、どこまでも横柄で尊大な言葉。それは王家の人間として国家の面子を保つ為には必要なのかもしれないが、言葉だけを捉えるのであれば、極めて礼儀に悖っている暴言とも言えただろう。だが、ヒイロはその程度の事で気を悪くした経験など一度も無かった。今回もその例に漏れず、呈された言はヒイロの胸中に何の影も落としはしなかった。
 しかし現実に今、ヒイロの胸中は決して穏やかなものでも無かった。
 太陽神を崇めている国家故か、太陽を讃える意識は普遍なのかもしれないが、訥々と綴られたそれにヒイロは得体の知れない不快感を覚えていたのだ。どうしてそんな感情が湧いてくるのかすら自身には解らないまま。
 陰に染まりし感情を自分の裡に溜め込む事を嫌ったヒイロは、穏やかな口調で吐露する。
「イシスは古い国です。それ故に埃被った意識狭窄も深く根付いているでしょうからね。それに絡め取られて身動きができなくならないように、注意はしますよ」
「……ふっ。言ってくれるな、若造が」
 冷鮮な琥珀の視線とその皮肉に、こめかみを一瞬だけ微かに震わせた男は一つ不敵に口元を歪ませ笑みを作る。それが余裕なのか虚栄なのかヒイロには判断がつかなかったが、それでも男の心中は穏やかなものでもないだろうと思う。ピリピリと男から発せられている剣呑な雰囲気がそれを物語っていた。

 穏やかな仮面を貼り付けて対峙する二人の男。静穏な場に殺伐とした空気が侵食していく時。涼やかな声が、緊迫した空気を払拭した。
「アスラフィル様。陛下の客人に対して些か失礼ではないですか?」
 そこに佇んでいたのは、翡翠の外套の上に冷涼な蒼穹の髪を流している“魔姫セルキス”ユラ=シャルディンス。彼女の額に座している上品な黄金のティアラは、薄暗い中にある図書室においても少しも褪せる事無く、威厳を持って煌いていた。
「……ユラさん」
「これは“魔姫”殿も何か書をお探しに?」
 ヒイロは新たな声の方を向き、徐にその名を呟く。アスラフィルと呼ばれた男も、空々しく同時に尋ねた。
「話を逸らさないでいただけますか、アスラフィル様」
 とぼけるアスラフィルに、それを諌めるようにユラは毅然とした表情で言い放つ。その真摯な眼差しに、アスラフィルは小さく肩を竦めた。
「ふっ、これは失敬。確かに客人に対してのものではなかったな。そんな事よりも“魔姫”殿。私は聖地の巡視に出てくる。“守護翼獣”は借りていくぞ」
 取り合う価値も無い、と言いたげに小さく吐息を零して踵を返したアスラフィルに、ユラはその柳眉を歪めずにはいられなかった。
 アスラフィルには常々、自分が“魔姫”という立場にある上で侮られていると確信してきたからこそ、そこから生まれる不満は一入だった。だがその情思をあるがままに表にするのは、ただ反発するしか術の無い子供のする事。そしてそれ以上に重く在るのは身分の貴賎。
 それらの事情を自らに釘として打ち、自らの立場と責任を強く意識してユラは返した。
「……お気をつけ下さい。結界内とはいえ、外殻楽園最北に位置する王家の幽谷まで安全が保障できる訳ではありませんから」
「“魔姫”殿。ご自身の発言には常に注意を喚起せよ。貴女・・という立場の者がそのような弱気な事を言われれば、下の者が不安に駆られる。気をつけられたし」
「……っ、軽率でした」
「では失礼する」
 苦言を呈し失笑するアスラフィルに、図星を突かれて更に表情を歪めるユラ。
 そのわかり易い表情を満足げに眺めた後、半ば傍観者化していたヒイロを冷侮に一瞥して、アスラフィルはわざとらしく外套を大きく翻した。
 平衡の崩れた三者三様の視線。はためく外套が大仰に空気を呑み込み、その音が厭に大きく部屋を駆け回る。その中を、アスラフィルは堂々泰然と歩み去っていった。




 アスラフィルが立ち去った方向を視線で示しながら、ヒイロは黙したままのユラに問う。
「ユラさん。あの方は? 軍議の時には見なかった顔ですけど」
「……彼はアスラフィル=ステフ=ソティス様。イシス王墓守衛隊の隊長で、女王陛下の実弟です」
「へぇ、通りで面影が重なるわけだ」
 先程感じた既視感の正体が判明して、頷き納得するヒイロを見つめながら、ユラは申し訳無さそうに言った。
「すみません。あの方はこの聖王国イシスを貴び、ラーの血族である自らを誇るが余り、他国の来訪者に対しては度が過ぎる程に手厳しいのです」
「それは別に貴女が謝る事じゃないですよ。……それに俺達の存在を快く思わないのは、彼だけという訳でもないと思いますしね」
 先程の会議室の一件は、まさにユラの言をそのままに体現した結果だろう。それをよく理解しているのか、身を小さくするようユラは肩を縮めた。
「……返す言葉もありません」
「あ、いや……別に先程の事を非難している訳ではありません。歴史ある国家というものは、そこに住まう人間にとって誇るべき矜持ですし、大切な心の拠り所です。ましてや代表である王家の人間ならば、それが顕著でも仕方がない意識の流れなのかもしれません」
 慌てて取り繕うヒイロに、ありがとうございます、と小さく零して漸くユラはいつものように表情を柔らかくする。そして彼の側の机上に山積みにされた本に目がいき、その多さに思わず目を瞠った。
「ところで……つかぬ事をお伺いしますが、ヒイロ殿は何かをお調べだったのですか?」
 ユラの視線が自分が築いた書山に釘付けになっているのを見止めて、ヒイロは苦笑しつつ後頭部を掻いた。
「ピラミッドについての記述がされた本ですね。歴史書、風土記、魔法学……その辺りの観点からの記述を見て回ってました」
「……理由をお伺いしても宜しいですか?」
 心なしかユラの声色が神妙さを増す。ピラミッドがイシス人にとっての聖地であり、敬う王家の人間が眠る王墓である事情を思い返し、ヒイロは穏やかに言った。
「警戒しなくても大丈夫ですよ。俺は別に王墓に埋葬された宝物に興味があるわけじゃないですから。ピラミッドを建造するに至った過程、その状況。人々が歩んできた過去の足跡……そういった過去を想起させる物に興味があるんです」
「成程……」
 懸念していたものと全く別の返答に、ユラは思わず感心に頷く。
 アズサより齎された報告より、彼が“盗賊”を職としているという事実に拘泥しすぎていたのかもしれない。だが眼前の青年の誠実な様に、ユラは表面しか見ていない自らに恥じ入る思いだった。
 そんなユラの裡の葛藤を知らずに、ヒイロは揚々と語る。
「もっというならば、この国で古より培われてきた魔法技術も知りたいですね。この国で培われた陣式の魔法操術は、時を超えて連綿と継がれ伝えられてきたもの……」
「ヒイロ殿は魔法を嗜まれるのですか?」
「いや、全く」
 はっきりと断言するヒイロに、ユラは困惑からか目を白黒させた。
「め、珍しいですね。魔法を使われない方は、大抵行使する為に必須とする膨大な理論を忌諱し、避けようとするものですが……」
「ええ。そのお蔭で、変わった奴だ、と昔馴染みに良くせっつかれます」
「まあ、ふふふ……」
 その時の様子を思い出してのヒイロの苦笑に、ユラもつられて笑みを深めた。

 ほぼ一方的だった蟠りが解けて、会話に花を咲かせる中。何をご覧になっているのですか、とユラは机の上に置かれた書を覗き込もうと前屈みになる。そしてその古ぼけた書物を見止め、目を細めて動きを止めた。
(これは……)
 食い入るようにユラは机上に置かれた古書を見つめる。それは先程までヒイロが格闘していた妖精言語で綴られた書物。途端に滔々と引き摺り出される過去の光景に、ユラは息をするのも忘れて固まった。
 積み重ねられた山を崩さないようにユラの意識は机上ばかりに向いていた。その為、それが仇となったのか認識外であった床に積み上げられていた本にユラは躓き、バランスを崩してしまう。
「あっ……」
 倒れそうになるユラを、すかさずヒイロが彼女の前に回りこみ、その肩を抱き留めて支えた。
「っと、大丈夫ですか?」
「す、すみません。少し、疲れているんでしょうかね……」
 急な事で軽く思考に混乱をきたしたユラは、慌てて体勢を直そうとするも腕に力が入らない。しっかりと自分を支えるヒイロの腕が、逞しく温かく感じられた。
「……でも、私は“魔姫”の立場にあります。聖都の守りは私の双肩に掛かっているんです。休んでいる暇なんて――」
 自責か自戒か。消え入りそうな声で呟くユラは浅く嘆息も言葉と共に零す。そこにはやはり色濃い疲労が滲んでいた。
 憔悴した彼女の様子がとてもか細く感じられたヒイロは、ユラが自らに言い聞かせている続きを察し、やんわりと微笑を浮かべながら遮った。
「この国の女性は皆、頑なで強かだ。だけど、それは自らを追い詰める理由にはならないと思います」
「……貴方は優しいんですね」
 ヒイロの腕にしな垂れかかった体勢のまま、小さく目を見開いたユラはやがて顔を上げ、そこに在る優しい琥珀の光を見つめた。
 図書室というものは往々にして、光による紙の腐食劣化を防ぐ為に暗く、空気が篭っている。申し訳程度に燈された燭代からの橙色の火が、空気と共に埃をパチパチと焼いていた。
 暗がりで光源の色が炎色の為か、自分を見上げるユラの頬は微かに赤らんでいるようにヒイロは思った。
白翠アルベド……逃げて』
「!?」
 刹那。間近で潤んでいるユラの青い双眸が、不意に何かを呼び覚ます。
 無い筈の記憶の底からいつかの時が浮上し、視界の現実と重なってはそれらの境界を亡失させる。
『白翠!!』
黄碧キトリニタス……?」
 意識と思考が紡いだ言葉ではなく、ただ魂から零れた言葉。それは抑揚の無く、酷く緩慢な響きだった。
「ヒイロ殿?」
 唐突に完全な無表情になったヒイロの豹変振りに、怪訝に声を潜ませるユラ。
 それが聴覚に届いたのか、咄嗟にヒイロは支えていたユラの身体ごと腕を伸ばし、彼女との距離をとる。
「え、あ……いや。失礼しました」
「いえ、こちらこそ……では私も邪魔にならないように失礼させていただきますね」
 微かな名残惜しさを声に孕ませ、佇まいを正したユラは一礼をして足早に、図書室の奥に消えていった。




 茫然自失に佇んだままヒイロは動けなかった。それよりも遙かに大きな動揺に自分の意識が占有され、身体の自由を奪っていたからだ。
(何だったんだ……今の幻視は)
 無造作にヒイロは己の白銀の髪をかき回す。耳の音で何か硬質な物が軋む煩わしい音がしていた。
(……黒曜ニグレド青晶ウィリディタス白翠アルベド黄碧キトリニタス…………赤碌ルベドっ!?)
 次々と脳裡に浮かび上がる意味深長な単語。そしてそれに連なるは逆光の中に佇む人影シルエット。鮮やかな色彩を放つ影の波は懐郷の情を揺さぶらせ、それら像の最後。炎よりも猛る太陽の如きに紅い影が瞼の裏に映し出される。
「っ!!」
 急にズキリと頭蓋が軋み、視界が大きく揺れた。
 その傷みにヒイロは身体を支えきれなくなり、乱暴に机に手を置いて寄りかかる。その振動で机に積み重ねていた書山が倒壊してしまった。バラバラと大音を立てて床に散らばる書物と紙片。その一つ一つを呆然と目で捉えながらも、霞み始めた視界では最早追う事もできなかった。
 呼吸をする度に肺が焼けるように痛い。
 思考をする度に額が割れるように痛い。
 別の場所から静謐な場で盛大に音を発てた自分を、責め、何事かと盗み見る険しい視線をいくつも感じる。だがそれらを留めるだけの余裕がヒイロには全く無くなっていた。
(赤碌……)
 どうしようもない感情が裡の、自分の知らない部分から込み上げてきている。心なしか視界が赤く染まった気がして、その浸蝕を阻むようにヒイロは目元を掌で覆ってこめかみを強く掴む。
「……バルマ、フウラ」
 理由は解らなかった。ただ心が張り裂けそうなまでの憎悪が自分の中で荒れ狂っているのを、ヒイロはどうしようもなく感じていた。

 何処かから入り込んだ風が、先程まで熱心に読んでいた古ぼけた書物を捲り上げる。
 パラパラと小気味良い音を発てて捲られる頁。狭められた視界の端でそれを捉えたヒイロは、そこに妖精言語で書かれている内容が完璧に解読できている事を、強く認識する事は無かった。




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