――――第二章
      第十二話 残されたもの







 日が傾き、徐々に闇が室内に侵食し始めていた。
 微かな夕日の残照は、夜になろうとしている刻限では、それだけで明々と輝いている様にも見える。その朗らかな茜色は、否応無く人の哀愁という感情を震わせ、心に深い蔭を落す。

 部屋にいた誰もが晴れない顔色を浮かべていた。
 その原因は一つ。魔王討伐の宿命を背負った『勇者』ユリウスだ。彼の齎した波紋は、時を置いても鎮まる様子を見せなかった。
 ユリウスと真っ向から衝突したミコトも、黙って聞き入っていたアズサも、釈然としない面持ちのまま複雑な思考をしているのか、同じ顔で苦々しい雰囲気を醸し出していた。それが余りにも似ていた為、先程までのやり取りを傍観していたヒイロは声を掛ける事が出来ない。
 どうしたものか、と視線を左右に馳せらせながらヒイロが逡巡していると、闇と影に薄暗くなっていた部屋に燈っていた優しい癒しの白光が止んだ。その変化の先にヒイロは視線を移すと、その光を発現させていたソニアが大きく息を吐いていた。





「……すまねぇな、嬢ちゃん」
「いいえ。……後は、薬草を湿布して、安静にしていれば直に良くなると思います」
「ああ……。ありがとう」
 今しがた治療し終わった患部の動きを確かめながら、カンダタは律儀に焼け焦げてボロボロになったマスクを外して、ソニアに深く頭を下げる。マスクの下の精悍な面は消耗し疲弊した様子ではあったが、人間らしい活潤の有るそれだった。
 敵対した筈の相手、ましてや自分の父と同じ位であろう年齢の男性から、真っ直ぐに頭を下げて礼を述べられる事に不思議な感覚を覚えながらも、ソニアは曖昧にならないよう微笑みで返す。
 重症だった者が快復に向かおうとするのを嬉しくない筈は無い。それが慈愛を翳す精霊神ルビスに仕える僧侶としての本分、そして何よりもソニア自身の性分なのだ。助かる命を助けるのが、癒しの魔法を扱える者の義務とすら考えていた。だからこそ、その真っ直ぐな感謝が心にくすぐったく感じられた。
「……いいんです。亡くなった方は帰ってきませんけど、生きている方を助けられただけでも……」
 甦るのは階下の惨劇。そして何よりも、もう二度と会える事の無い義姉の柔らかな横顔。
 口から出た言葉は、寧ろ自分に言い聞かせているものかもしれない。ソニアはそう思い、俯きながら眸を伏せる。体力と精神の疲弊によって青白くなった顔色と相俟って、その表情には悲壮さが満ちていた。

 ソニアは、次から次へと涌き水の様に滾々と込み上げてくる想いにグッと堪えて、大きく一息吐く。
 そして立ち上がり、既にミコトの束縛から離れて、開け放たれたまま外の風の逃げ道になっている赤銅の扉に、独り背を預けていたユリウスの方へとゆっくりと歩み寄った。
 近づくと、よりハッキリと見えて来るその表情は生彩が無く、人形の様に端整で無表情である。頬から垂れ流れたままの血の筋が、微かに日に焼けた肌には吸い込まれそうな程に艶かしく映えていた。傍らの足元に金の冠が入っているであろう道具袋を無造作に置き、所々裂かれた濃紺の外套で全身を覆い隠し佇む姿は、やはり人の温かみを感じさせない。
「……ユリウス、怪我は?」
 なるべく眼を合わせない様にソニアは視線を下げ、躊躇いの為か何処かおずおずと尋ねる。消沈した様子のそれがユリウスとソニア、二人の身長差も相俟って、端から見れば完全にソニアがユリウスの前で俯いているように見えてしまっていた。
 下げた視線からは、濃紺の外套の所々に緋色の染みが飛び込んでくる。それは紛れも無く血痕で、その生々しい紅さは否応無く階下の惨状をソニアに思い起こさせる。想わず震えが起きてしまうのを必至で堪えようと身を強張らせるが、かえってその細い肩を震わせる結果になってしまった。
 そんなソニアを見向きもせずに、視線を虚空に泳がせたままユリウス。先程とは打って変って、至極淡々と手短に返した。
「問題無い」
「…………」
 こちらを見向きもせず、あからさまに拒絶意志を顕にしている冷たい返事に、ソニアは少しムッとして眉を寄せて不服を示すが、それをユリウスは視界にすら捉えていない為、効果は無かった。
 流れ始めた沈黙に耐え切れ無くなって、再び何か言おう、とソニアは言葉を捜しながら口を開くが、何時の間にかユリウスの前に歩み寄っていたアズサに遮られてしまう。
「問題無い訳があるか。ミコトの殴打も躱せない程消耗しておるのじゃろう? 見え透いた強がりなど目障りなだけじゃ」
「……」
 辛辣な言葉とは裏腹に、アズサの声色には心配色が乗せられていた。彼女は整った柳眉を下げ、緑灰の双眸に悲哀の色を浮かばせながらユリウスを見上げている。何故か盗み見る様にソニアは視線を上へと動かすと、注視していないと判別できないくらい微かに、ユリウスは眼を細めていた。その様子は、何処か憮然としている様にも見える。
(……当たっている、のかな?)
 もしそうであれば、物着せぬ言い方のアズサが少し羨ましく思える。
 簡単にそうできない事情や理由が自分にはあるが、重傷である事を隠し通されるのは僧侶として、回復魔法の使い手として侮られている気がしてならない。それに少しばかりくやしいと感じる自分がいた。
 ソニアがそんな思考を繰り広げている間にも、アズサはユリウスの反応も待たずに、右手でその朱に染まりつつある濃紺の外套を強引に捲り上げた。するとそこには力任せに袖が破られた上着と、完全に青紫色に変色し切り、その上から血を垂れ流して本来の倍以上にまで腫れ上がっている左腕が痛ましく露になる。良く見れば、空色の上着のあちこちが裂け、血色に塗れていた。それらはとても五体満足と言える状態では無いだろう。カンダタも重症にも劣らない程の痛手の筈だ。いや、元の体格からくる体力差を考えればユリウスの方がそれは深刻かもしれない。
 先程、ミコトの殴打を躱す事をしなかった、否、出来なかった理由が漸く解った。それらを険しく眼を細めて見つめ、眉を寄せながらアズサはソニアを振り向く。その視線の先、アズサの肩越しにユリウスを見ていたソニアも今までの自身の思考も忘れ、ただ眼を細めている。
「これは……酷いな。ソニア、早く治療を」
「え、ええ。……霊聖なる生命の光よ。失われし欠片を糧に、新たなる命の芽を育め。べホイミ!」
 ソニアは直に、ユリウスの左腕に掌を添えて、癒しの魔法を紡ぎ出す。柔らかな光の帯が患部を包み込み、その奥に潜む命の胎動に呼応する様に、その白光も脈打っては光の波紋を荒涼とした部屋の中に広げていった……。




 ソニアの放つ回復魔法の淡い白光を左腕に受けながら、ユリウスは瞑目したまま大きく嘆息していた。大きく肩を動かしている処を見ると、やはりアズサの言う通り痛みを隠し通そうとしていたのか。
 掌で光を発しながら、ソニアは瞑目したままのユリウスを観察するように見つめた。
 自分より二つも年下の男。表情には相応の幼さの面影が残るも、その通った鼻梁といい、伏せた眸から伸びる長い睫毛といい、やはり整った顔の造りだ。元々色が白い為か、かなりの失血をしている為か顔色は余り良くない。苦痛に喘ぐ様子も見せないその無表情も相俟って、まるで物言わぬ人形の様に見えてしまった。
 ここでふと、集中が逸れそうになるのに気付いて、僅かに自分の桜色の唇を噛んで止める。
「ユリウス。…………あなたは姉さんを――」
「!」
 ソニアが顔を俯かせ、消え入りそうな声で呟く。それは傍らに立って二人を見つめるアズサにすらはっきり聞えない程度の声量であった。
 その言葉と意味が聴覚に捉えられ、雷速で脳髄に届く。その瞬間、ユリウスは大きく眼を見開いて、何を思ってか空いていた右手で魔法の白光を点しているソニアの右腕を掴み上げた。
「っ……!?」
 突然強い力で腕を握られて何事かと瞠目し、驚き焦るソニアは集中を途切らせてしまった。すると中断された回復魔法…収束されていたエーテルは行き場を失い、渦巻く不可視の奔流がソニアの掌とユリウスの左腕の空間で火花の様に音無く爆ぜた。その不可解な衝撃に慄いてソニアは身を竦ませる。
「ちょ……、ちょっとユリウス」
「……もういい」
 既に立ち上がり、踵を返しているユリウス。
 横から掠め見た冷たすぎるその面は、感情はおろか生物の持つ温かさなど感じられなかった。それに口を小さく開けたまま唖然としてしまうソニアは、動く事ができない。
 突発的なユリウスの行動に、傍で眼を丸くしていたアズサは慌てて声を掛け、立ち去ろうとしているその左肩に手を伸ばす。
「おい、ユリウス。どうしたのじゃ?」
「触るな」
 左肩に手を掛けて止めに来たアズサの腕を、ユリウスは治療中の未だ折れたままの左腕で振り払った。
 半眼で返り、睨んでくる剱の切先のようなユリウスの眼に、戦い慣れている筈のアズサでさえも狼狽してしまう。その間にユリウスは足早に歩を進め、部屋を出た先の階段前の通路…周りの人間から離れたの確かめる様に無表情で一瞥した。
 そして……。
「先に村に戻る。…………リレミト」
 紡がれた言葉が迷宮離脱魔法であるという事にその場にいた人間が気付いた瞬間、ユリウスの姿が周囲の空間、景色と溶ける様に同調した。かと思うと、その姿は直に陽炎の様に虚ろに歪んでその輪郭が朧になリ、終には泡沫の如く音も無く消え失せてしまった。
「あ、……行きおった」
 眼前で魔法を使われて唖然とするアズサが、溜息を吐くように言葉を零す。宙に投げ出された行き場の無い自分の手を握り締めて、苦虫を噛み潰したような顔でそれを見つめていた。

 開け放たれたままの扉と窓から一陣の風が吹き入って来て、沈黙に満ちていた部屋中を駆け巡り、その軌跡の音を残したまま流れ去っていく。地上から遥か高みに位置するこの塔の部屋では、風の音が嘆者の咆哮のように聞えてしまい、自然と心は悲哀に揺さぶられて往く。
(……あなたは姉さんを――――庇ってくれていたの?)
 そう聞く事は叶わず、求めた答えに触れる事も出来無かった。失われた機、そして更なる困惑にソニアは一層晴れない霧の中に突き落とされた気分だった……。




「何だったのじゃ、あやつは?」
 未だ唖然としたままアズサは、傍らに立ち尽くすソニアやこちらに歩み寄ってきたミコトに視線を向けた。
「そんなの、わかる訳が無いだろ……」
 先程の応酬がまだ尾を引いているのか、ミコトは憮然としながら首を横に振る。その様は、不条理な事に対して根に持つ、というよりは、実直過ぎる性格からか不可解で釈然としない、といったものだ。そのような頑なさは己の信義に揺らぎが無い反面、融通が利かないという事でもある。今まさにそれを目の当たりにして、アズサは同じ顔の少女を見据えながら、他人には見分けがつかないくらい微かに口元を引き攣らせて、自分の頬を指先で掻いていた。
 ここで意識を先刻に戻す。
 ユリウスが立ち上がる直前、ソニアの声が聞えたような気がしていた。それをアズサは腕を組みながら黙考し、その旨を悄然と佇んでいるソニアに問い尋ねる。
「ソニア。お主、何を言ったのじゃ?」
「え……?」
 首を傾げて尋ねてくるアズサに、判り易くソニアは一瞬ビクッと身を竦ませてしまった。その様を見ながら、愚直なまでに心の動きを面に映す彼女には隠し事は向いてはいないな、と思いアズサは内心で苦笑を零してしまう。
 あからさまに何かを隠しているソニアの様子に、唐突にユリウスが去った原因が有るのではないか、という確信にも似た何かを感じながら言葉を繋げた。
「ユリウスに何を言ったのかと、訊いたのじゃ」
「……何でもない、よ」
 瞼を伏せつつ消え入りそうな声音で返されるソニアの答えに、アズサは思わず口を噤んだ。ソニアのその悲愴に満ちた表情が、アズサにそれは訊いてはいけない事だというのを錯覚させ、微かな罪悪が胸の内に生じた為であった。




 気のせいであろうが、問尋ねてくる何となくアズサの口調が詰問口調だと感じてしまう。否、アズサはそんなつもりは無い筈だ。そう感じてしまうのは、自分の中の感情がそれに対して敏感になっている。つまりそれは、後ろ髪を引かれるような何かを心の裡に内包しているからだ。
 それ故に普段の、いつも自分を気遣ってくれるミコトと同じ真っ直ぐな緑灰の視線。余りに酷似した迷い無いそれに眼を合わせる事が出来ないソニアは、傍らに逸らしてそう言うのが精一杯だったのだ。



 ユリウスは元々猜疑の眼を向けていた相手。敬愛していた義姉をその手に掛けたという噂を認めた相手。
 つい先刻、その彼が齎したとされる階下の惨劇。そして、普段らしからぬ激昂と共に発せられた言葉……。
(……ユリウスは――)
 意識が容を現し、言葉になって口外に零れそうになるのを、慌ててグッと呑み込む。いくら感情に任せても、それだけは口にしてはならない、と心の中で何かが働いていた気がする。
(ユリウスが姉さんを……、彼はそれを認めた。でも、さっき彼が言っていたのは……姉さんの名誉を庇っているような口振りだった。……わからない。…………私にはわからないよ)

 感受性豊かなソニアにとって、普段の情動という心の動きが存在しないのではないか、とすら思えてしまう彼の冷徹さからは考えられない。先程のユリウスの猛然な様子はそれを示しているように思えていた。
 渦を巻く様にぐるぐると廻る思考の結果出された結論。だがそれを認める事を心が拒絶している。理由は自分でも解らない。それほどまでに頑なな何かが自分の中に根付いていたのだ。
(! もしかして私は……、彼を憎む事で、疑い続ける事で悲しみを逸らそうとしているの?)
 ふと、脳裡を掠めてしまった考え。それが真なら、自分はとても狡い人間ではないか……。そんな卑しい思考を振り払う様に、心の中で哀号する。
(違う……、違うっ!!)
 僧侶の自分が、神に仕える自分が、こんな事を考えている訳が無い。そんな事は決して許されない。
 だが、今まで僧侶として生きてきた自分の頭の中では反駁の声を挙げても、ソニア=ライズバード個人の心は何処かでそれを容認する。晴れない思いから解放されたい、と渇望の感情を伴った心は僧侶としての自分に反発する。
(私は…、……私はっ!)
 裡で波立つ激しい感情に理屈云々は通用しない。それを可能にするまで自分は精神的に成熟してはいない。それを自覚している分、余計に自分の未熟さが、幼稚さが許せなくなってくる。だから心の中で慟哭する。

 眉間にきつく皺を寄せて瞑目し、下唇を噛み締めているその姿はとても痛ましく、彼女の答えの見えない葛藤に苦しんでいる様子を現していた。その沈痛な、今にも泣き出しそうな表情は自己批判と自己弁護…相容れぬ認否の色に満ちていた。



「……まぁ、私は詳しい事情は知らぬから、そう言われた以上何も言えぬがな」
 心内の情動の結果、見る間に生彩を無くしてしまったソニアの肩をあやすようにポンと軽く叩き、アズサは部屋の隅に向って歩き出す。その先には、不自然な位滑らかに切断された鋼鉄の塊が、鈍く光を反射させて転がっていた。
 それを拾い上げながらアズサ。切断面を見つめるその眸は、何処か儚げな雰囲気すら漂わせている。
「……いや、違うか。一つだけ、言える事が有るな」
「何をだい?」
 今まで、彼女達のやり取りを黙って静観していたヒイロが首を傾げた。
 その言葉を皮きりに、部屋にいた誰もが視線をアズサに集める。それらを受けながら、アズサは鏡の様に自身の顔を映し出す鋼鉄の塊に目を落としたまま、苦しそうにきつく目を瞑った。
「ユリウスの事じゃ。あやつ…あやつの剣は死に急ぐ者の剣じゃ」
 以前カザーブ村で手合わせした時に感じた事。それが心を抉り、ズキリと胸が痛んだ。鋭すぎる刀身を持つ剣は、一つ間違えれば扱う者自身をも切り刻む諸刃の剣である。そんな事を瞑目しながら考えてしまう。
 剣士として、それが解る。解ってしまう自分が哀しかった。
『勇者』として立ち上がった者。世に生きる人々の為、そして生き残る為に仇となる魔物を討ち滅ぼす。つまり生への意志を体現する存在だ。それが世の多くの人々にとって『勇者』たる者の前提である。だからこそ、ミコトはそれを真っ向から覆すような言葉を発し続けたユリウスと対峙した。
 それを聞いたソニアが弾かれた様に眼を大きく見開いてアズサを見上げるが、アズサは瞑目したまま。
「以前手合わせしたから解る。あやつの剣技の総ては相手を殺す為だけに特化しておる。じゃがそれは、同時に自分自身に降り掛かる危険性も孕んでおる」
「……その節は思い当たるな」
 普段のユリウスの戦い方…常に最前線に身を投じ、独りで魔物の集団を紙の様に斬り伏せる様子を思い浮かべ、うん、と頷くヒイロ。



 以前、アリアハン宮廷騎士レイヴィスがそれを命を奪う事への愉悦、と評していたが、アズサの言う通りの見方も出来る。
 つまり、死を望むが故に、最も危険な最前線に自ら飛び込んでいく。相手を斃す事だけに没頭し、守りと言う保身を殺して攻め続けている。
 それは、捨て身に近い心内で剣を振るっている事なのだろうか……。



 ここでヒイロは、短く頭を振ってそれ以上の思考を止めた。
(……総ては憶測に過ぎない、か)
 傍に立つゼノスにも判らないくらいに頭を横に振り、小さく嘆息する。
 視線をアズサに戻すと、彼女の緑灰の眼は哀愁の色を漂わせて、窓の外の鈍色の空を見つめていた。




(……奴は望んでいたのか? 死ぬ…事を)
 ヒイロとアズサの会話を聞きながら、カンダタはそんな事を思い浮かべた。
 先程の戦闘中の変貌ぶり、狂気染みた彼の言葉。
 自分に繰り出してきた攻撃の総ては、確かに自分を殺しに掛っているものだった。先程は頭に血が上ってそれを省みるつもりも無かったが、改めて言われると深く納得してしまう。
 カンダタにはそれらが急速に一つの点で収束するような気がした。ただ一つ誰にでも平等に有る“死”という一点に。
 かつて共に戦った親友の息子。今、世界が嘱望しょくぼうする『勇者』と呼ばれる少年。
 家族と平穏に生きる事を目指し戦い抜いたオルテガ。死という終焉を望んで戦い続けているユリウス。
 先程のユリウスの狂気に染まっていた闇色の眼が、急に最期に見たオルテガの背中に重なってならなかった……。




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